Anterior Chamber Depth and the Long-Term Safety of Implantable Collamer Lens Surgery: A Case for Re-Evaluating Age-Stratified Indication Criteria
更新日:10月13日
Watanabe K. (2026). Anterior Chamber Depth and the Long-Term Safety of Implantable Collamer Lens Surgery: A Case for Re-Evaluating Age-Stratified Indication Criteria. Clinical ophthalmology (Auckland, N.Z.), 20, 626019.
題名:前房深度とICL手術の長期安全性:年齢別適応基準の再検討に向けて
目的:ICL手術を受けられるかどうかの目安について「手術のときだけではなく、その後の長い年月も見込んで考える必要性」について提案することが目的です。ICLは、虹彩(茶目の部分)の後ろ、水晶体の前に小さなレンズを入れて近視を矯正する手術です。レンズを入れるスペースの目安が「前房深度」であり、角膜の内側から水晶体までの奥行きの長さを指しています。

図の矢印が前房深度で、ICL(青)はそのスペースの奥側に入ります。
現在の目安は、日本では2.8 mm以上(添付文書)、米国FDAの承認基準では3.0 mm以上であり、日本はアメリカと比較して適応基準が 7% 低い値に設定されています。レンズは何十年も目の中に入ったままになります。その間に水晶体が少しずつ厚くなるため、このスペースは年齢とともに狭くなっていきます。狭くなりすぎると、角膜の内側の細胞が減ったり、眼圧が上がりやすくなったりする可能性があります。そこで著者は、手術を受ける年齢に合わせて目安を変えることを提案しています。
対象:新しく患者さんを調べた研究ではなく、これまでの研究をまとめて考察した「総説」です。東アジアの人(日本人を含む)の前房深度、年齢による目の変化、ICLの長期成績などの研究が使われています。想定されているのは、20〜40代でICLを考える東アジアの人です。近視の目は前房が深めのことが多いため、関係するのは前房深度が浅めの人だと著者は述べています。
方法:過去の研究の数値を使い、手術から何十年かたったときに、目の中のスペースがどのくらい残るかを計算しています。
将来のスペース = 手術前の前房深度 − レンズが前に出る距離(約0.3 mm) − 加齢で狭くなる距離(1年に約0.012 mm)
計算式①:レンズが入っている間の最小の前房深度
ACDmin = ACD₀ − v − r × T
計算式②:手術前に必要な前房深度(ACDmin が 2.4 mm 以上になる条件)
ACD₀ ≥ 2.4 + v + r × T
記号の意味と、論文で使われた数値
ACD₀:手術前の前房深度(mm)
v:ICLが水晶体から浮いているぶんの減少。0.30 mm
r:加齢で前房深度が浅くなる速さ。1年あたり 0.012 mm
T:ICLを入れてから白内障手術までの年数(60歳で手術と仮定)
ACDmin:レンズが入っている期間の最小の実効前房深度(mm)
ICLは水晶体から少し浮かせて置くため、そのぶんレンズが前に出ます。60歳ごろに白内障の手術でICLを取り出すと仮定し、それまでスペースが2.4 mmを下回らないために必要な前房深度を、年齢ごとに求めました。2.4 mmは、東アジアの人の調査で、これより浅いと目の中の水の出口がふさがる病気が増えるとされた値です。
結果:手術を受ける年齢が若いほど、前房深度に余裕が必要という結果でした。
手術を受ける年齢 | 著者が提案する前房深度の目安 |
20代 | 3.2 mm以上 |
30代 | 3.1 mm以上 |
40代 | 3.0 mm以上 |
40代の目安は、米国FDAの基準と同じ値です。この計算では、20歳で前房深度2.8 mmの人が手術を受けると、60歳ごろには約2.0 mmまで狭くなる見込みになります。角膜の内側の細胞については、前房が浅めの目を10年追跡した研究で、自然な減り方の約2倍の速さで減っていたと著者は紹介しています。同じ研究で、10年後の視力の成績は良好でした。なお、30〜40年という長さで実際に確かめたデータは、まだありません。
考察:著者の考えは、「レンズを長く入れておく人ほど、最初の余裕を大きめにとっておく」というものです。ただし、これは確立した基準ではありません。2.4 mmという目安は日本人で直接確かめられておらず、30〜40年先の変化も、短い期間の研究から計算式による推定です。著者自身、日本の基準はアメリカと比較し緩く設定されていることから、今後の検証を呼びかける提案だとしています。ICLだけでなく、レーシックなどの角膜の手術や、眼鏡・コンタクトレンズも含めて、その人の目に合う方法を選ぶことを推奨しています。外科的侵襲による目への影響を考慮すると、コンタクトレンズや眼鏡で問題なく日常を過ごせている方は、屈折矯正手術を受ける必要性はありません。なお、著者はICLを否定しておらず、条件の合う人・環境に適合する人(遠くを見ることが多い職種など)には推奨できる治療法だとしています。
結論:ICLの目安は、手術の時点だけでなく、その後の何十年も見込んで考える必要性があります。
提案された目安は、20代で3.2 mm、30代で3.1 mm、40代で3.0 mm以上です。
この数字だけで手術の可否が決まるわけではなく、ほかの検査と合わせて判断する材料とされています。
ICLは広く行われるようになった手術ですが、何十年という長い期間のデータはまだそろっていません。近年はUGH症候群の報告も出てきています。日本の添付文書でも、長期の安全性と有効性はまだ確立されていないとして、手術後の定期的な受診が求められています。手術を受けたあとも定期的に検査を続ける必要性があると考えます。
※この論文で提案された数字は計算による目安(予測)です。
コメント:ICLは改良が重ねられて第五世代となり、旧型に比べて安全性が向上したとされています(2015年ごろまで使用されていた第四世代ICLでは眼圧の上昇・緑内障・白内障のリスクが頻繁に報告されています)。ただし、安全性が向上したとされる第五世代ICLにおいても、現時点のデータは約10年間の追跡調査にとどまっています。メーカーの添付文書にも記載されているとおり、長期の安全性はまだ確立されていません。
また、フットサルやバスケットボールなどのスポーツ中の外傷、自転車での転倒、物が当たったなど、目を強くぶつけたときに、眼内のICLレンズがズレる(脱臼する)ことが報告されています。ズレたレンズが角膜の内側に触れると、角膜の障害につながるおそれがあると指摘されており、乱視用のICLではレンズが目の中で回転する合併症も報告されています。
その後の経過は次のとおりです。
回復:数日以内にレンズを元の位置に戻す手術を受け、視力は怪我の前の水準に戻りました。
合併症:網膜剥離を起こし、追加の手術が必要になりました。
再発:同じ対象者において再びレンズがずれました。
いずれも、レンズを支える端の部分が前房側(虹彩の前)に飛び出す形でずれていることが報告されていますので、転倒リスクや目をぶつける可能性が考えられる環境(家の中や屋外)では眼鏡を併用するなど、目の外傷に対して安全を確保する方法を検討いただけますと幸いです。また、レーシックについてもICLと同様に目をぶつけるとフラップがズレる可能性があることから、目をぶつけたら早めに眼科の主治医にご相談ください。
近年報告されているUGH症候群
この論文では触れられていませんが、近年、ICLの手術後に「UGH症候群」が起きたという報告が出てきています。UGH症候群は、目の中のレンズが虹彩などにこすれることで、炎症・眼圧の上昇・出血が起こる状態です(Zemba & Camburu, 2017)。ICLでは2024年以降、UGH症候群や、それが疑われる出血の症例があると報告しています(Almasri & Pichi, 2025、Zuo ら, 2024、Yan Ke & Zheng Chang, 2024 学会発表、Gao ら, 2025)。レンズを取り出すことで症状が落ち着いた例が報告されていますが、今後どのくらいの頻度で起こるのか、前房深度と関係があるのかは現時点で明らかにされていません。
日本の屈折矯正は世界と比較すると少し異質な状況
日本の屈折矯正は世界と比較するとガラパゴス化(特異的)の状況であることが指摘されています。海外では視力矯正の選択肢は 保存療法としてコンタクトレンズ・眼鏡 がスタンダードであり、外科的侵襲手術(屈折矯正手術)では目の外傷に比較的強く、ドライアイや近視の戻りが少ない「SMILE」が推奨されています。レーシック・ICLは日本国内において屈折矯正手術の中心を担っていますが、国外では眼に与える長期的リスクの観点から施術数が減少傾向を示しています(度数の強さや眼の状況、過ごされる環境により、適切な屈折矯正の方法は異なります)。
参考文献
Watanabe K. Anterior Chamber Depth and the Long-Term Safety of Implantable Collamer Lens Surgery: A Case for Re-Evaluating Age-Stratified Indication Criteria. Clin Ophthalmol. 2026;20:626019. doi:10.2147/OPTH.S626019
Zemba M, Camburu G. Uveitis–Glaucoma–Hyphaema Syndrome. General review. Rom J Ophthalmol. 2017;61(1):11–17. doi:10.22336/rjo.2017.3
Almasri KG, Pichi F. Uveitis-Glaucoma-Hyphema Syndrome Secondary to Implantable Collamer Lens. Ocul Immunol Inflamm. 2025;33(1). doi:10.1080/09273948.2024.2342386
Zuo H, Chen Y, Lin M, Cheng H, Zheng S, Wan W, Hu K. A case of delayed recurrent hyphema following Implantable Collamer Lens (ICL) surgery. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;36:102158. PMID: 39319203
Yan Ke, Zheng Chang. Uveitis-Glaucoma-Hyphema Syndrome Following Implantable Collamer Lens Implantation. 42nd Congress of the ESCRS; 2024. Poster PO248. doi:10.82333/cjme-ps60
Gao Y, Liu C, Li L, Zhou Q. Two cases of spontaneous hyphema after posterior chamber phakic intraocular lens implantation. BMC Ophthalmol. 2025;25:91. doi:10.1186/s12886-025-03904-4
スターサージカル株式会社. アイシーエル KS-AquaPORT 添付文書(第10版、2025年3月). PDF
Packer M. The Implantable Collamer Lens with a central port: review of the literature. Clin Ophthalmol. 2018;12:2427–2438. doi:10.2147/OPTH.S188785
※文献(8)は利益相反の開示があります。著者はICL製造販売メーカー(STAAR)のコンサルタントです。
Guber I, Mouvet V, Bergin C, et al. Clinical outcomes and cataract formation rates in eyes 10 years after posterior phakic lens implantation for myopia. JAMA Ophthalmol. 2016;134(5):487–494. doi:10.1001/jamaophthalmol.2016.0078
Kojima T, Kitazawa Y, Nakamura T, Kamiya K, Ichikawa K, Igarashi A, Shimizu K. Multicenter survey on implantable collamer lens dislocation. PLoS One. 2022;17(2):e0264015. doi:10.1371/journal.pone.0264015
Moshirfar M, Stagg BC, Muthappan V, Vasavada SA. Traumatic dislocation of implanted collamer phakic lens: a case report and review of the literature. Open Ophthalmol J. 2014;8:24–26. doi:10.2174/1874364101408010024
Espinosa-Mattar Z, Gomez-Bastar A, Graue-Hernandez EO, Navas A. DSAEK for implantable collamer lens dislocation and corneal decompensation 6 years after implantation. Ophthalmic Surg Lasers Imaging. 2012;43:e68–e72. doi:10.3928/15428877-20120712-04
※この記事は論文の紹介で、個別の診断や治療の判断を示すものではありません。
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