お子様の色付きレンズとプリズムレンズについて
更新日:10月12日
2026年8月21日、日本眼科医会、日本眼科学会、日本弱視斜視学会、日本小児眼科学会、日本近視学会、日本視能訓練士協会の6団体から「児童生徒のサングラス・カラーレンズ等の使用に関する見解 ― 保護者・学校関係者の皆さまへ ―」が公表されました。この見解では、紫外線対策の意義を認める一方、健康な目のお子様が学校生活全般でサングラスやカラーレンズを常時装用することを一律に推奨できる十分な医学的根拠はないとされています。眼疾患による羞明、術後管理、片頭痛、感覚過敏など、医学的な理由で必要となる場合については、状況に応じた対応が必要です。また近年、カラーレンズと合わせてお子様に過剰なプリズムレンズを処方されている例もございます。プリズムレンズもカラーレンズと同様に、状況に応じた対応が必要です。色付きレンズやプリズムレンズの効果そのものを否定するのではなく、使用する目的、場面、時間を明確にしたうえで、その必要性を個別に判断することが基本となります。
色付きレンズの常時装用について
色付きレンズによって「まぶしさが減った」「見やすくなった」と感じる方もいます。こうした反応は、使用を検討するうえで参考になります。ただし、装用直後に楽になることと、毎日長時間使用することが適していることは同じではありません。特にお子様の視覚系は発達の途中にあります。医学的な適応が明確ではない場合には、朝から夕方まで常時装用するのではなく、使用する場面や時間も含めて検討することが望まれます。また、紫外線対策はレンズの色の濃さそのものではなく、UVカット性能によって決まります。したがって、紫外線から目を守ることと、常に色付きレンズを使用することは別の問題です。2021年には同じ6団体から「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」も公表されており、小児に日中ブルーライトカット眼鏡を常用させることについて慎重な見解が示されています。色付きレンズは光量だけでなく、目に入る光の波長特性も変化させます。Alzahranら(2021)は、ブルーライトカットレンズの種類によって色コントラスト感度に影響が生じる可能性を報告しています。もちろん、この小規模な研究だけで色付きレンズの長期使用が眼や視覚系の発達に与える影響を判断することはできませんが、レンズを通すことで視覚入力が変化することは理解しておく必要があります。また、屋外における自然光への暴露は、お子様の近視進行予防に有用であることが示されています。色付きレンズによる光の波長変化が近視進行にどのような影響を与えるのかは現時点において調査されていません。そのため、色付きレンズについては「使う・使わない」という二択ではなく、何のために、いつ、どの程度使用するのかを整理したうえで、生活に取り入れることが適切ではないでしょうか。
プリズム矯正も「多ければよい」とは限りません
斜位に対するプリズム矯正もカラーレンズと考え方は同様です。プリズムは複視や眼精疲労などを軽減する有用な方法ですが、測定された斜位量をそのまますべてプリズムで補正することが必ずしも最適とは限りません。Hwangら(2023)は、平均9.19±5.88Δの遠見外斜位を有する若年成人18名について、
屈折異常のみを完全矯正した条件
Sheard基準によるプリズム矯正
外斜位を全量プリズムで矯正した条件
の3条件で姿勢安定性を比較しています。
その結果、動揺軌跡長は屈折矯正のみで23.81±2.82 cm、Sheard基準で21.38±2.00 cm、全量プリズム矯正で25.69±2.36 cmでした。Sheard基準では、他の2条件より有意に短くなっています。さらに最大動揺速度は、屈折矯正のみで4.90±0.48 cm/s、Sheard基準で4.23±0.35 cm/sだったのに対し、全量プリズム矯正では7.32±1.18 cm/sまで増加しました。つまり、この研究では、「斜位をすべて補正すれば、より安定する」という結果にはなりませんでした。むしろ、斜位量だけではなく融像能力を考慮してプリズム量を決めた条件の方が、一部の姿勢安定性指標は良好でした。
両眼視への負荷と姿勢との関係
プリズムと姿勢の関係を調べた研究は、この一報だけではありません。Kimら(2020)は42名の若年成人を対象に、4Δ・8Δのbase-out prismによる輻輳や、2Δの上下プリズムによるvertical vergenceを誘発しました。その結果、両眼単一視を維持するために強い輻輳や上下融像を求められた条件で、姿勢不安定性が増加しています。Matheronら(2007)も、わずか2Δの上下プリズムによって姿勢制御が変化することを報告しています。ただし、その影響はプリズムを装用する眼や固視距離によって異なり、身体動揺が増加する条件だけでなく、安定性が改善する条件もありました。一方、Suttleら(2015)は、健常成人に5Δのvertical yoked prismを30分間装用させても、体幹、股関節、足関節などの姿勢には明確な変化を認めなかったと報告しています。これらの研究を合わせて考えると、「プリズムを入れれば姿勢が良くなる」「プリズムを入れれば姿勢が悪くなる」と単純に評価することはできません。プリズムの方向、度数、視機能の状況、装用方法などによって反応が異なる可能性があります。
プリズムを入れると眼も適応します
もう一つ考慮したいのが vergence adaptation(輻輳・開散適応)です。StephensとJones(1990)は base-in および base-out prism への適応によって、斜位と融像限界がプリズム量に応じて変化することを報告しています。つまり、プリズムを入れれば眼位がその位置に固定されるのではなく、眼球運動系も新しい光学環境に適応するということです。さらにWuら(2016)は、3~6歳の幼児にもプリズムに対する vergence adaptation がみられることを示しています。ただし、これは「プリズムを使用すると斜位が悪化する」という意味ではありません。正確には、プリズム装用によって眼球運動系が適応し、測定される斜位や融像状態が変化することがあるということです。そのため、斜位量だけを基準にプリズム量を決めるのではなく自覚症状や視機能の状況、装用後の変化なども含めて確認することが望まれます。
お子様への使用を検討する前に眼科医へご相談を
色付きレンズもプリズムも、適切に使用すれば有用な光学的手段です。その一方で「楽になったから一日中使う」「斜位があるから、その量をすべてプリズムで補正する」と考えるのではなく、使用する目的、矯正量、使用時間、そして装用後の変化を確認しながら調整することが重要です。お子様のカラーレンズやプリズム処方をご希望される場合、先ずは小児専門の眼科医にご相談ください。
実務より
昨今、お子様の眼鏡を拝見するなかで、左右に異なる色付きレンズ(カラーレンズ)を使用し「発達上の課題や運動能力、読字・学習上の問題が改善する」と説明された例や、斜位に対して非常に強いプリズム度数を設定し「目の力みを取り、楽に見えるようにする」「目の力みを取り、運動のパフォーマンスを向上させる」との概念から作製されたレンズに接する機会があります。
色付きレンズ(カラーレンズ)による読字・学習上の問題の改善についてはその効果が非常に小さく、プラセボによる影響も排除できないことから、十分な科学的根拠が確立しているとはいえません(Griffiths et al., 2016)。また、色付きレンズ(カラーレンズ)は確かに重心動揺に影響を与えることが示されていますが、運動能力の向上につながるかは解明されていませんし、装用する色によっては姿勢の安定性を阻害し、重心動揺が増加した結果も報告されています(Zhang et al., 2025)。
プリズムについても、強く設定(矯正)するほど良いとは限りません。先に述べた通り、Hwangら(2023)は、外斜位を全量プリズムで補正した条件において、融像能力を考慮したSheard基準による補正よりも、身体動揺が大きくなる指標を報告しています。また、Kimら(2020)も、プリズムによる過度な輻輳・融像負荷が姿勢の不安定性を増加させる可能性を示しています。
以上から、十分に検証されていない理論を根拠として、特殊な色付きレンズを長期間使用したり、必要以上に強いプリズムを設定した眼鏡を長期間使用したりすることについては、より慎重に考える必要があります。「見やすい」「楽になった」という感覚は参考になりますが、それだけで長期的な有効性や安全性まで判断することはできません。特にお子様の視覚系は発達の途中にありますので、即時効果だけでなく、長期間使用した場合の影響が十分に明らかになっていないことにも目を向ける必要があります。眼に携わる立場として、科学的根拠と現在分かっていない点の双方をお伝えし、その方に適したレンズを検討していく姿勢が求められるのではないでしょうか。
参考文献
日本眼科学会,日本眼科医会,日本弱視斜視学会,日本小児眼科学会,日本近視学会,日本視能訓練士協会.児童生徒のサングラス・カラーレンズ等の使用に関する見解―保護者・学校関係者の皆さまへ―.2026年8月21日.
日本眼科学会,日本眼科医会,日本近視学会,日本弱視斜視学会,日本小児眼科学会,日本視能訓練士協会.小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見.2021年4月.
Alzahran HS, Roy M, Honson V, Khuu SK. Effect of blue-blocking lenses on colour contrast sensitivity. Clinical and Experimental Optometry. 2021;104(2):207–214. doi:10.1111/cxo.13135.
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