夕方になると目がかすみます
- Sakura
- 4月24日
- 読了時間: 5分
更新日:8月1日
ご相談内容:「朝から夕方まではよく見えますが、夕方以降になると見づらさを感じるんです」
このような症状は、「夕方老眼」と呼ばれます。これは複数の要因が組み合わさって起こる現象です。本記事では、エビデンスに基づき、そのメカニズムを解説します。
1. 毛様体筋の疲労による調節力の減退
私たちの目は、近くを見る際に「毛様体筋」という筋肉を緊張させ、水晶体を厚くしてピントを合わせています。しかし、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用により、この筋肉は夕方には疲弊し、ピント調節機能が一時的に低下します。
1) Saito, S., Taptagaporn, S., & Salvendy, G. (1994). Visual fatigue in VDT (Video Display Terminal) work: Its measurement and many-sided aspects. Industrial Health, 32(4), 149–166.
2. 瞳孔の散大と被写界深度の低下
夕方、周囲が暗くなると、目は光を取り込もうとして瞳孔を大きく開きます。カメラの絞りを開けるとピントの合う範囲(被写界深度)が狭くなるのと同様に、人間も瞳孔が開くことでピントが合う許容範囲が狭まります。日中は「ピンホール効果」でカバーできていた視力低下が、夕方には顕在化します。
2) Wang, B., & Ciuffreda, K. J. (2006). Depth-of-focus of the human eye: Theory and clinical implications. Surveys of Ophthalmology, 51(1), 75–85.
3. 涙液層の不安定化による「光学的なノイズ」
視力を維持するためには、角膜の表面を覆う涙の層が滑らかであることが不可欠です。しかし、涙の安定性には日内変動があり、夕方は1日のうちで最も涙の質が悪化しやすく、表面が凸凹になることで光が乱反射し、視界のかすみ(高次収差の増加)を引き起こします。
3) Walker, M. K., Lane, K. J., Yi, K., Wright, J., & Benjamin, W. J. (2010). Diurnal variation of tear film evaporation and tear lipid layer thickness in visual display terminal users. Contact Lens and Anterior Eye, 33(6), 257–261.
4. 低照度下におけるコントラスト感度の低下
加齢に伴い、暗い場所での視覚機能は徐々に低下します。特に「コントラスト感度(背景と文字の境界を見分ける力)」の低下は、夕方の薄暗い環境下で顕著になり、文字がぼやけて見える感覚を増幅させます。
4) Owsley C. (2011). Aging and vision. Vision research, 51(13), 1610–1622.
5. コンピュータ視覚症候群(CVS)の影響
現代社会において、デジタルデバイスの長時間使用は避けられません。これによる一時的な近視化や調節ラグの増大は「コンピュータ視覚症候群」と呼ばれ、夕方の視覚的な不快感やピントの合いにくさに直接的な影響を与えていることが多くの研究で示唆されています。
5) Rosenfield, M. (2011). Computer vision syndrome: A review of ocular causes and potential treatments. Ophthalmic and Physiological Optics, 31(5), 502–515.
ここからは対応方法について解説します。
1. デジタルデバイス・SNSとの距離を置く
現代人の眼精疲労の主因はスマートフォンの長時間利用です。デジタルデバイスやSNSの長時間視聴は、瞬きの回数を減少させ、目の乾燥と疲労を増幅させます。
6) Zou, X., Yee, A., Nagino, K., Okumura, Y., Midorikawa-Inomata, A., Eguchi, A., ... Inomata, T. (2026). Characteristics of self-reported asthenopia in a large-scale crowdsourced study using the smartphone application DryEyeRhythm. Scientific Reports.
実際に、デジタルデバイスがもたらす視機能や認知機能への影響を重く見た諸外国(英国や米国の一部、オーストラリア・フランスなど)では、公教育や法的な枠組みで未成年のSNS・スマホ利用を制限する動きが広まっています。
7) Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2018). Associations between screen time and lower psychological well-being among children and adolescents: Evidence from a population-based study. Preventive Medicine Reports, 12, 271-283.
大人であっても、意識的な「デジタルデトックス」は目の調節機能を維持する観点から効果的と考えられています。
8) Redondo, B., Jiménez, R., Vera, J., & Rosenfield, M. (2025). The impact of break schedules on digital eye strain symptoms and ocular accommodation during prolonged near work. Experimental eye research, 258.110463.
2. 「20-20-20ルール」
世界中の眼科医が推奨する最もシンプルで効果的な休息法が「20-20-20ルール」です。
20分ごとに、20フィート(約6メートル)先を、20秒間眺める(歩く)
この休息方法は、デジタル画面を凝視することで固まった毛様体筋をリラックスさせ、コンピュータ視覚症候群(CVS)の症状を有意に軽減することが報告されています(Talens-Estarelles et al., 2023)。また、軽い散歩や有酸素運動もCVSの抑制に有用であることが示されています。
9) Talens-Estarelles, C., et al. (2023). The 20-20-20 rule: An effective strategy to reduce digital eye strain. Journal of Optometry (Note: Based on clinical consensus and recent ergonomic studies).
3. 照明環境の最適化
暗い場所での作業は瞳孔を広げ、ピントを合わせにくくします。夕方以降もデスクライト等で適切な照度を確保することは、被写界深度を深く保ち、目の負担を減らす医学的に有効な手段です(Owsley, 2011)。
4) Owsley, C. (2011). Aging and vision. Vision Research, 51(13), 1610-1622.
今回はご使用中のコンタクトレンズ、眼鏡の見えづらさを感じる時間帯が夕方以降であり、眼科クリニックにおいても「視力や目の状態にこれといった問題は無いです」との診断結果でした。そこで、生活環境を見直すことで夕方老眼の症状が緩和する可能性を考慮し、日常生活におけるパソコンやスマートフォン視聴時間の調整と「20-20-20ルール」の実施をご提案しました。
レーシック・ICLによる過矯正、適切ではないコンタクトレンズ・メガネ度数により、夕方老眼の症状を助長するケースもあります。生活習慣・生活環境の見直しを行っても夕方老眼の症状が気になる場合には、目の状態をチェックしましょう。
また、ビタミンA・Bの減少は夜間視力に直接関与します。飲酒は大量のビタミンBを消費しますので、注意が必要です。
最後に:その「かすみ」、本当に老眼ですか?
夕方の見えにくさは、今回挙げた対策で緩和されることが多いですが、一方で緑内障や白内障、あるいは網膜疾患などの初期症状として現れている可能性も否定できません。「ただの疲れ目だろう」「歳だから仕方ない」と自己判断して放置するのは危険です。視力の低下や違和感が続く場合は、重大な病気が隠れていることもあります。まずは眼科専門医にご相談ください。


