脳卒中による内斜視
更新日:9月28日
ご相談内容:「フレネル膜プリズムで複視は解決されたんですが、ぼやけて見えてしまい、車の運転や日常生活に不安を感じます」
今回は、橋(脳幹)の脳卒中後に内斜視を発症し、複視(物が二重に見える症状)をフレネル膜プリズムで補正されているお客様からのご相談です。眼位を確認すると、内斜視の角度は約32Δ(プリズムディオプター)と比較的大きく、角度に換算すると約18°に相当します。脳幹には眼球運動を制御する重要な神経経路が集まっています。そのため、橋の脳卒中によってこれらの経路が障害されると、眼球運動に左右差が生じ、斜視や複視が現れることがあります。橋にはPPRF(paramedian pontine reticular formation:傍正中橋網様体)をはじめ、水平眼球運動に関係する神経機構が存在します。障害される部位や範囲によって眼球運動障害の現れ方は異なりますが、今回のように眼位のずれによって複視が生じるケースもあります。
※参考:城倉健.(2020). 脳卒中と眼球運動障害:橋の神経眼科学. 神経眼科, 37(2), 129–139.
フレネル膜プリズムとは
フレネル膜プリズムは、薄いシート状のプリズムを眼鏡レンズの表面に貼り付け、光の進む方向を変えることで複視を軽減する方法です。大きな斜視角にも比較的対応しやすく、プリズム量を変更したい場合にはシートを貼り替えることで調整できます。特に、脳卒中後などで斜視角がまだ変化する可能性がある時期には、状態に合わせてプリズム量を変更しやすいという大きな利点があります。一方で、フレネル膜プリズムには細かなプリズム構造が多数設けられているため、通常の眼鏡レンズと比べると透明度やコントラストが低下し、ぼやけた印象を感じることがあります。今回のお客様も、複視自体は軽減しているものの、「全体的にぼやけて見える」「車の運転が不安」「日常生活でも見え方にストレスを感じる」という点に悩まれていました。
なぜフレネル膜プリズムを使用していたのか
かかりつけの病院では、斜視角が大きいことからフレネル膜プリズムによる補正を勧められていたとのことです。脳卒中後の眼位は、発症直後から一定とは限りません。回復過程に伴って斜視角が変化することもあるため、角度が安定するまではプリズム量を変更しやすいフレネル膜プリズムが適している場合があります。しかし今回のケースでは、発症・治療から一定期間が経過しており、眼科での診察においても斜視角が安定していることが確認されていました。そのため、「複視を抑えながら、もう少しクリアな視界を得たい」というご希望に合わせて、光学レンズによるプリズム補正を検討することにしました。

光学プリズムレンズによる調整
光学プリズムレンズは、眼鏡レンズそのものにプリズム作用を持たせる方法です。フレネル膜プリズムのようにレンズ表面へシートを貼り付ける必要がないため、適切に設計できれば、より透明度の高いレンズで複視を補正できます。今回も眼位と見え方を確認しながらプリズム量を調整し、光学プリズムレンズで眼鏡を製作しました。写真上の眼鏡は、これまで使用されていたフレネル膜プリズムを貼り付けた状態です。表面には細かなプリズム構造があり、その影響で透明度が低下していることが分かります。一方、写真下は光学プリズムレンズで製作した眼鏡です。レンズ表面にフレネル膜がないため透明度が高く、複視を補正しながら、よりクリアな視界を得られるよう調整しています。後日、お客様からは、「車の運転でも視界が良好です」とのお声をいただきました。今回のケースでは、複視を抑えることだけでなく、日常生活で必要となる視力やコントラストをできるだけ確保することが重要でした。
大きなプリズム度数にも対応しています
谷町眼鏡店では、Special Lenses Laboratory(Made in France)との連携により、一般的な眼鏡レンズでは製作が難しい高度数レンズにも対応しています。球面度数や乱視度数が非常に強いケースをはじめ、大きなプリズム補正が必要な場合にも、製作可能な範囲を確認しながらレンズをご提案しています。今回のように、「フレネル膜プリズムではぼやけて見える」「複視は改善したものの、見え方の質に不満がある」「大きなプリズム度数が必要と言われた」「通常の眼鏡レンズでは製作が難しいと言われた」といったお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
※本記事は、お客様ご本人の許可を得たうえで掲載しています。
※脳卒中後に新たな複視や眼球運動障害が生じた場合には、まず眼科・神経内科などの医療機関で診察を受けることが重要です。
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