近視の予防
- Sakura
- 3月16日
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更新日:5月14日
近視の予防(抑制)について近年の研究からまとめてみました。記載している論文以外にも様々な近視に関する研究が行われています。PubMedというサイトを使うと世界中の論文にアクセスできます。ご興味をお持ちの方は検索してみてください。
台湾では、学校での屋外活動時間を増やす政策的介入により、学童の低視力が増加する長期的傾向が逆転しました。ランダム化試験で屋外暴露が近視の発症を遅らせることが証明されているため、屋外時間の増加を促進する介入は、近視の流行に影響を受けている他の地域でも有用である可能性があります。屋外活動の近視抑制効果が証明されました。また6歳~12際では、身体活動が高いほど近視のリスクが低いことが報告されています。
1)Wu PC, Chen CT, Chang LC, Niu YZ, Chen ML, Liao LL, Rose K, Morgan IG. Increased Time Outdoors Is Followed by Reversal of the Long-Term Trend to Reduced Visual Acuity in Taiwan Primary School Students. Ophthalmology. 2020 Nov;127(11):1462-1469.
2)Ma F, Yang J, Yuan J, Du B, Li T, Wu Q, Yan J, Zhu Y, Meng X, Liu Y, Wei R, Huang G, Yan H. The Myopia Prevalence and Association With Physical Activity Among Primary School Students Aged 6-12 Years: A Cross-Sectional Study in Tianjin, China. Transl Vis Sci Technol. 2024 Jun 3;13(6):4.
2つのタイプの有水晶体レンズ(フェイキックIOL)を比較した場合、バイオレットライト光を透過させるアルチフレックス(ARTIFLEX)を入れた方が、術後の近視進行に抑制効果がありました。その原因は350~400nmの紫光を通すことと考えられます。
3)Torii H, Ohnuma K, Kurihara T, Tsubota K, Negishi K. Violet Light Transmission is Related to Myopia Progression in Adult High Myopia. Sci Rep. 2017 Nov 6;7(1):14523.
網膜への低強度赤色光の照射は近視抑制に有効であることが示されました。
4)Xu Y, Cui L, Kong M, Li Q, Feng X, Feng K, Zhu H, Cui H, Shi C, Zhang J, Zou H. Repeated Low-Level Red Light Therapy for Myopia Control in High Myopia Children and Adolescents: A Randomized Clinical Trial. Ophthalmology. 2024 Nov;131(11):1314-1323.
近視コントロールにおける近視リバウンドについて。近視矯正用メガネやソフトコンタクトレンズは近視のリバウンドが従来の報告通り確認されませんでした。近視のリバウンドが大きかった治療法は赤色光療法とアトロピンでした。
5)Bullimore MA, Brennan NA. Efficacy in myopia control-The impact of rebound. Ophthalmic Physiol Opt. 2025 Jan;45(1):100-110.
近視のない4〜9歳の子どもでは、プラセボと比較して0.05%アトロピン点眼薬を夜間に使用すると、近視の発生率が低下しました。0.01%アトロピンとプラセボとの間に有意差はありませんでした。アトロピン点眼は濃度によって近視抑制効果が異なります。
6)Yam JC, Zhang XJ, Zhang Y, Yip BHK, Tang F, Wong ES, Bui CHT, Kam KW, Ng MPH, Ko ST, Yip WWK, Young AL, Tham CC, Chen LJ, Pang CP. Effect of Low-Concentration Atropine Eyedrops vs Placebo on Myopia Incidence in Children: The LAMP2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023 Feb 14;329(6):472-481.
7)Yam JC, Jiang Y, Tang SM, Law AKP, Chan JJ, Wong E, Ko ST, Young AL, Tham CC, Chen LJ, Pang CP. Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study: A Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled Trial of 0.05%, 0.025%, and 0.01% Atropine Eye Drops in Myopia Control. Ophthalmology. 2019 Jan;126(1):113-124.
小学生を対象とした6か月のRCTでクロセチンの効果を検証したところ、眼軸長伸長、屈折ともに近視進行抑制効果を認めました。
8)Mori K, Torii H, Fujimoto S, Jiang X, Ikeda SI, Yotsukura E, Koh S, Kurihara T, Nishida K, Tsubota K. The Effect of Dietary Supplementation of Crocetin for Myopia Control in Children: A Randomized Clinical Trial. J Clin Med. 2019 Aug 7;8(8):1179.
9)Mori K, Kurihara T, Miyauchi M, Ishida A, Jiang X, Ikeda SI, Torii H, Tsubota K. Oral crocetin administration suppressed refractive shift and axial elongation in a murine model of lens-induced myopia. Sci Rep. 2019 Jan 22;9(1):295.
DIMSレンズを2年間使用した場合、子供の近視進行抑制率は屈折52%、眼軸長62%と高い抑制率が示されました。
10)Lam CSY, Tang WC, Tse DY, Lee RPK, Chun RKM, Hasegawa K, Qi H, Hatanaka T, To CH. Defocus Incorporated Multiple Segments (DIMS) spectacle lenses slow myopia progression: a 2-year randomised clinical trial. Br J Ophthalmol. 2020 Mar;104(3):363-368.
11)Lupon M, Nolla C, Cardona G. New Designs of Spectacle Lenses for the Control of Myopia Progression: A Scoping Review. J Clin Med. 2024 Feb 19;13(4):1157.
血中ビタミンD濃度およびビタミンDパスウェイの遺伝子と、近視との関連についてシステマティックレビューとメタ解析を行った結果、血中ビタミンDが低濃度の場合は近視のリスク増加と関連することを明らかにしました。しかし、近視がビタミンDパスウェイの遺伝子とは関連が認められない結果が示されました。
12)Tang SM, Lau T, Rong SS, Yazar S, Chen LJ, Mackey DA, Lucas RM, Pang CP, Yam JC. Vitamin D and its pathway genes in myopia: systematic review and meta-analysis. Br J Ophthalmol. 2019 Jan;103(1):8-17.
オルソケラトロジーを着用している大人と小児は従来のコンタクトレンズと比較して有害事象を経験する可能性が最大3.79倍高い結果となりました。
13)Sartor L, Hunter DS, Vo ML, Samarawickrama C. Benefits and risks of orthokeratology treatment: a systematic review and meta-analysis. Int Ophthalmol. 2024 Jun 21;44(1):239.
〔まとめ〕
屋外活動は近視進行抑制に効果があります。その要因として紫光が指摘されています。次に身体活動が高い子どもほど近視リスクが低いことから、屋外であそぶことは目の機能維持に大切な役を果たす結果が示されました。
DIMSレンズは網膜の前にピントを結ぶ近視性デフォーカスにより、近視進行抑制効果がある新しいデザイン(光学設計)の眼鏡レンズです。2年間の近視進行抑制率は屈折52%、眼軸長62%と高い抑制率が示されましたが、残念ながら日本では現時点において使用することが認められていません。
HOYAビジョンケアが発売したDIMSレンズ「MiYOSMART」は2018年以降、30カ国以上で100万人に処方され、患者は近視抑制のメリットを享受していると報告されています。
余談ですが強度近視のケースでは眼鏡装用が眼球の運動範囲を減少させ、眼球への血流量が減少し、近視が進行する可能性が指摘されています。-10D以上の強度近視では近視予防の観点から、コンタクトレンズと眼鏡の併用を検討するとよいのかもしれません。
14)Tan L, Tan J, Yang H, Wang J, Chen C, Peng Y, Ai L, Tang Y. Effects of wearing myopia glasses on eye movement and scleral blood supply. Med Int (Lond). 2024 Jul 18;4(6):55.
近年注目されているレッドライト療法は治療中断後、近視のリバウンドが確認されている背景から、治療の継続が必要になる可能性が示されました。アトロピン点眼は0.01%の濃度では近視抑制の効果が無い、もしくは効果が少ない可能性が示唆されました。0.025%以上であれば近視抑制の効果がありますが、レッドライト療法と同様に治療中断後は近視のリバウンドが確認されています。クロセチンについては内服することにより近視抑制に一定の効果が示されています。
ビタミンDが近視予防に有用ではないかといった説もありますが、野外活動の代用としてビタミンDを利用するのは遺伝子学上の関連が乏しいと考えられます。
オルソケラトロジーは一定の近視予防効果がありますが、日中の視力は時間の経過とともに低下します。また、就寝中にハードコンタクトレンズを装用し続けることについて、長期的観点からエビデンスベースで不明な点が多く、通常のコンタクトレンズと比較すると有害事象(角膜の疾患など)が3.79倍高くなっていることから、小児への処方は眼科医によって意見が分かれています。
数年前になりますがコロナ渦において、小中学生の近視が大幅に進行したデータが示されました。この原因として屋外活動の減少が指摘されています。近視コントロール(近視の予防)の方法として屋外活動以外の介入結果には一貫性がないことも指摘されていますが、現在のところ屋外活動の増加とクロセチンの内服、DIMSの使用が近視リバウンドも少なく、比較的安定した近視抑制効果を示していると考えられます。
15)Lawrenson JG, Shah R, Huntjens B, Downie LE, Virgili G, Dhakal R, Verkicharla PK, Li D, Mavi S, Kernohan A, Li T, Walline JJ. Interventions for myopia control in children: a living systematic review and network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2023 Feb 16;2(2):CD014758.
