高温と紫外線が目に与える影響
- Sakura
- 7月23日
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更新日:7月24日
白内障や早期の老眼を防ぐために、今できること
夏になると、肌の日焼け対策には気を配っていても、「目の日焼け」まで意識している方は、まだ多くないかもしれません。しかし近年、紫外線だけでなく、水晶体(目のレンズ)の温度上昇も、白内障の発症や進行に関係する可能性が指摘されています。しかも、その影響は高齢になってから突然始まるのではなく、子どもの頃からの紫外線曝露や生活環境の積み重ねが関係すると考えられています。この記事では、近年の研究をもとに、紫外線や熱が目に及ぼす影響と、今日から実践できる予防策について解説します。
そもそも白内障とは
紫外線や熱との関係が注目される「核白内障」白内障は、目の中でピント調節を担う透明なレンズである「水晶体」が濁る病気です。水晶体のどの部分が濁るかによって、いくつかのタイプに分けられます。その一つが、水晶体の中心部にある「核」が硬くなり、濁っていく核白内障です。近年、この核白内障と紫外線や熱との関係が注目されています。金沢医科大学眼科学講座の佐々木洋先生らの研究グループは、皮質白内障についても、紫外線との関連が強い「輪状型皮質白内障」と、紫外線との関連が明確ではない「Water clefts」が進行して生じる車軸型皮質白内障があると報告しています。さらに、紫外線が強い地域では、核白内障のリスクが急激に高くなる可能性も示されています(1) 。核白内障の初期には、ピントの合い方や手元の見え方が変化し、本人が「老眼が進んだ」と感じることがあります。「白内障は高齢者の病気」というイメージがありますが、紫外線や熱による影響は、30~40歳代で現れる早期の見えにくさ(老眼の進行)にも関係する可能性があります。
1) Miyashita H, Hatsusaka N, Shibuya E, Mita N, Yamazaki M, Shibata T, Ishida H, Ukai Y, Kubo E, Sasaki H. Association between ultraviolet radiation exposure dose and cataract in Han people living in China and Taiwan: A cross-sectional study. PLoS One. 2019;14(4).
紫外線は、どのように目を傷つけるのか
紫外線が目に入ると、水晶体などの組織に「酸化ストレス」が生じます。酸化ストレスとは、活性酸素などによって細胞やタンパク質が傷つけられる状態のことです。この影響が長期間にわたって積み重なると、水晶体を構成するタンパク質が徐々に変性し、白内障につながると考えられています。ドイツの研究グループによるレビューでも、紫外線による酸化ストレスが目の健康に影響を及ぼす仕組みが記載されています(2) 。紫外線の影響は、白内障だけではありません。世界保健機関(WHO)は、紫外線による目の急性障害として、光角膜炎、いわゆる「雪目」や結膜の炎症を挙げています。また、慢性的な影響として、白内障や翼状片などを挙げています。翼状片とは、白目の組織が黒目の方向へ伸びてくる病気です。WHOは世界の白内障による失明のうち、約10%が紫外線曝露に関係している可能性があると推定しています(3) 。実際に、佐々木先生らが中国と台湾の漢民族を対象に行った研究でも、生涯に眼が受けた紫外線量が多い人ほど、白内障や翼状片が多いという関連が示されています(1)(4) 。
2) Ivanov IV, Mappes T, Schaupp P, Lappe C, Wahl S. Ultraviolet radiation oxidative stress affects eye health. J Biophotonics. 2018;11(7).
3) World Health Organization. Ultraviolet(UV)radiation: Fact sheet.
4) Hatsusaka N, et al. Association among pterygium, cataracts, and cumulative ocular ultraviolet exposure: A cross-sectional study in Han people in China and Taiwan. PLoS One. 2021;16(7).
実は紫外線だけではない水晶体の「高温化」という、もう一つのリスク
近年、紫外線とともに注目されているのが、熱、つまり水晶体の温度上昇です。名古屋工業大学の平田晃正先生らの研究グループは、金沢医科大学と共同で、日本国内5都市における核白内障の有病率を、紫外線量と水晶体への熱負荷の両面から解析しました。その結果、核白内障の有病率と最も強く関連していたのは、「紫外線」と「熱負荷」を組み合わせた指標でした。研究モデル上の寄与率は、水晶体への熱負荷が約52%、紫外線が約31%、残りの約17%が、加齢に伴う水晶体のDNA修復能力の低下によるものと推定されています(5) 。この結果から、熱は紫外線に匹敵する、あるいはそれ以上に核白内障と関係している可能性が示唆されました。ただし、これらの数値は研究モデルから推定されたものであり、白内障の原因を個人ごとに単純に割合で分けられるという意味ではありません。水晶体が温度の影響を受けやすいことは、細胞を用いた基礎研究からも示されつつあります。ヒト水晶体上皮細胞を用いた研究では、培養温度を下げることで、レンズ由来のタンパク質を介した細胞保護に関係する変化が確認されました。水晶体が周囲の温度環境に影響を受ける組織であることを示す結果と考えられています(6) 。また、水晶体の温度が37℃を超えるような熱負荷が繰り返されると、核白内障のリスクが高まる可能性も指摘されています。熱の影響は、私たちの日常生活とも無関係ではありません。日本の約255万人分のレセプトデータを用いた大規模解析では、熱中症の既往がある人は、既往がない人に比べて白内障のリスクが3~4倍高い傾向が示されました。また、年齢が上がるほど、その差が大きくなる傾向もみられました(7) 。急激な体温上昇に伴って水晶体の温度も上昇し、それが白内障の発症に関係している可能性が考えられています。このように、紫外線と水晶体への熱負荷は、それぞれ単独で影響するだけでなく、両者が重なることで白内障の進行を促す可能性があります。高温環境では水晶体への熱負荷も増えると考えられるため、年々厳しくなる夏の暑さは、肌だけでなく、目にとっても無視できない負担といえます。
5) Kinoshita K, Kodera S, Hatsusaka N, Egawa R, Takata T, Hirata A, Kubo E, Sasaki H. Association of nuclear cataract prevalence with UV radiation and heat load in lens of older people: Five city study. Environ Sci Pollut Res. 2023;30(59):123832–123842.
6) Yamamoto N, Takeda S, Hatsusaka N, Hiramatsu N, Nagai N, Deguchi S, Nakazawa Y, Takata T, Kodera S, Hirata A, Kubo E, Sasaki H. Effect of a lens protein in low-temperature culture of novel immortalized human lens epithelial cells(iHLEC-NY2). Cells. 2020;9(12):2670.
7) ケアネット.夏場は注意!紫外線だけでなく、高温・熱中症も白内障リスクに(金沢医科大学・佐々木洋先生、名古屋工業大学・平田晃正先生らの研究報告より).
生涯に浴びる紫外線量が影響する:子どもの頃からの曝露と地域差
紫外線や熱の影響を考えるうえで重要なのは、一度にどれだけ多く浴びたかだけではありません。「これまでの人生で、どれだけ浴びてきたか」という累積量が関係すると考えられています。それを示す研究の一つが、沖縄県西表島の40歳以上の住民を対象とした調査です。同じ西表島に住んでいる成人でも、高校卒業まで沖縄で生活していた人は、20歳代以降に沖縄へ移り住んだ人に比べて、核白内障のリスクが高いことが示されました。報告では、その差は約8.67倍とされています。この結果は、成人後にどこで生活するかだけでなく、子どもから思春期にかけて、どの程度の紫外線を浴びたかが、将来の白内障リスクに関係する可能性を示しています。世界各地の研究でも、屋外で過ごす時間の長さや、眼鏡・サングラスを使用する習慣の有無によって、白内障の発症リスクが異なることが報告されています(2)(8) 。紫外線の強い地域ほど核白内障が増加する可能性を示した佐々木先生らの研究(1)と併せて考えると、若い頃から「目に入る紫外線を減らす習慣」を積み重ねることには、大きな意味があると考えられます。
8) Chen LJ, Chang YJ, Shieh CF, Yu JH, Yang MC. Relationship between practices of eye protection against solar ultraviolet radiation and cataract in a rural area. PLoS One. 2021;16(7).
白内障は「予防」が重要:今日からできる目の紫外線・熱対策
白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズに置き換えます。多くの場合、視力の改善が期待できますが、若い頃の水晶体が持っていた調節力や見え方が、完全に再現されるわけではありません。だからこそ、水晶体をできるだけ濁らせないこと、白内障の進行を可能な範囲で遅らせることが大切です。日常生活では、次のような対策が考えられます。
1.紫外線を「目に入れない」工夫
紫外線対策の基本は、目に入る紫外線の量を減らすことです。
UVカット機能のあるサングラスや眼鏡、つばの広い帽子、日傘などを適切に使用することで、眼部への紫外線曝露を減らせる可能性があります。台湾の離島である馬祖列島で行われた研究では、強い日差しの下でも眼鏡やサングラスをほとんど着用しない人は、着用する人に比べて白内障のリスクが約1.57倍高いことが示されました。また、帽子や日傘を使わない人では約1.45倍、眼鏡・サングラスと帽子・日傘のいずれも使用しない人では、約1.70倍に上昇していました(8) 。これは、眼鏡や帽子などを使用する習慣が、白内障のリスク低下に関係する可能性を示しています。紫外線を減らす効果の目安としては、日傘で10~30%、帽子で20~70%、サングラスで50~98%とされ、帽子とサングラスを併用すると、95~99%程度まで抑えられる可能性があると報告されています(7) 。サングラスを選ぶ際に大切なのは、レンズの色の濃さではなく、紫外線をどの程度遮断できるかです。「UV400」または「紫外線99~100%カット」「UV-A・UV-Bカット」などの表示を確認しましょう。米国眼科学会(AAO)も、UV400に対応したサングラスと、つばの広い帽子を併用することを推奨しています(9) 。なお、UVカットコンタクトレンズは、水晶体への紫外線を減らすうえで役立つ可能性がありますが、白目やまぶたまで覆うことはできません。そのため、屋外では眼鏡・サングラスや帽子と組み合わせて使用することが望ましいでしょう。
9) American Academy of Ophthalmology. The Sun, UV Light and Your Eyes.
2.熱中症を防ぎ、目や身体に熱をためない
熱も白内障のリスクに関係する可能性がある以上、紫外線対策だけでなく、身体に熱をためないことも大切です。猛暑日には、炎天下での長時間の作業や運動をできるだけ避け、日陰や冷房の効いた場所でこまめに休憩しましょう。水分や塩分を適切に補給し、熱中症そのものを防ぐことが、結果として目を守ることにもつながる可能性があります(5)(7) 。目の周囲に強い熱感がある場合には、冷たいタオルなどをまぶたの上から短時間当てる方法もあります。ただし、氷や保冷剤を直接まぶたに当てたり、過度に冷やしたりすることは避けてください。目の痛み、充血、見えにくさ、強いまぶしさなどが続く場合は、自己判断で冷却を続けるのではなく、眼科を受診することが重要です。
子どもの目を紫外線から守る
子どもの水晶体は、大人の水晶体よりも透明度が高く、紫外線が目の奥まで届きやすいと考えられています。また、子どもは屋外で過ごす時間が長い傾向があります。そのため、子どもの頃から目の紫外線対策を行うことは、将来の白内障リスクを考えるうえでも重要です。前述した沖縄県西表島の研究が示すように、子どもから思春期にかけて浴びた紫外線の量が、成人後の白内障リスクに影響する可能性があります。屋外でスポーツや外遊びをする際は、UVカット機能のあるサングラスや眼鏡、つばのある帽子などを活用しましょう。世界小児眼科斜視学会(WSPOS)も、紫外線が強い時間帯の直射日光をできるだけ避け、UV-AとUV-Bを99%以上カットするサングラスや、つばのある帽子を使用することを勧めています(10) 。一方で、屋外で過ごす時間は、子どもの近視の発症や進行を抑える可能性があることも知られています。そのため、日光を完全に避ける必要はありません。大切なのは、「外遊びをやめること」ではなく、紫外線から目を守りながら、適切に屋外で過ごすことです。
10) World Society of Paediatric Ophthalmology and Strabismus(WSPOS). Sunlight Exposure & Children’s Eyes: Consensus Statement. 2016.
おわりに
紫外線と、近年注目されている水晶体への熱負荷は、白内障、特に核白内障の発症や進行に関係する可能性があります。その影響は、高齢になってから突然始まるのではありません。子どもの頃から、どの程度の紫外線や高温環境にさらされてきたかという、長年の積み重ねが関係すると考えられています。だからこそ、年齢にかかわらず、今日から目を守る習慣を始めることに意味があります。UVカット機能のあるサングラスや眼鏡を使用する、帽子や日傘を併用する、炎天下での長時間の活動を避ける、こまめに休憩して熱中症を防ぐなど、できることから少しずつ取り入れてみてください。厳しい暑さが続く夏に、肌だけでなく、目を守ることにも意識を向けていただけますと幸いです。